タイタス・アンドロニカス
Titus Andronicus

「この恐ろしい眠りに終わりはないのか?」

− タイタス、息子たちの生首などを目の当たりにして(第3幕第1場)

≪ストーリー≫

場面: ローマ、およびその近郊

ローマの帝位継承権を争う、前皇帝の息子サターナイナスとバシエーナス兄弟。そこにゴート族との戦いに勝利したタイタスが凱旋帰国する。21人もの息子を戦いで失ったタイタスは、捕虜となったゴート族女王タモーラの長男を生贄として切り刻んで燃やし、彼らを弔う。

皇帝の座を断ったタイタスはサターナイナスを推薦し、新しいローマ皇帝が決定する。感謝のしるしとして、タイタスの娘ラヴィニアを妃として迎えようとするサターナイナス。しかしラヴィニアはバシエーナスと恋仲にあり、バシエーナスはタイタスの4人の息子たちの協力を得て彼女を連れ去る。その騒動の中、タイタスは息子を一人殺してしまう。侮辱に憤怒したサターナイナスはタモーラと結婚する。

身の潔白を主張するタイタス。タモーラは彼を許すようサターナイナスに嘆願するが、心の中ではタイタス一族への復讐心を燃やしていた。彼女は愛人アーロンとともに2人の息子(ディミートリアス、カイロン)をそそのかし、森の中でバシエーナスを殺害。さらに息子たちは一緒にいたラヴィニアを強姦し、その後彼女の両手と舌を切断する。

タイタスの息子たち(クィンタス、マーシャス)はバシエーナスの遺体を発見する。そこにタモーラに連れられて皇帝サターナイナスが現れ、彼らが弟を殺害したと思い込む。タイタスの息子2人は死刑宣告を受け、また彼らを救おうとしたもう1人の息子リューシアスは国外追放となる。息子たちを何とか助けたい一心のタイタスは、自分の片手を切り皇帝に献上。しかしその手は息子2人の生首とともにつき返される。復讐を決意するタイタス。

タモーラはアーロンとの間にできた黒い肌の男児を産むが、彼との関係がサターナイナスに知られることを恐れて赤子を殺そうとする。アーロンは赤子の乳母を殺し、白い肌の子と取り替えるため赤子を連れ去る。しかしローマに進軍していたリューシアスに捕まり、赤子の命を救うために全ての悪事を白状する。

タモーラは2人の息子とともに変装してタイタス邸を訪ね、リューシアスのローマ進撃を止めるよう説得させようとする。騙されたふりをするタイタスは、タモーラがサターナイナスのもとに戻っている間に息子たちを殺す。タイタスはさらにその死体でパイを作り、その後タイタス邸にやって来たサターナイナスとタモーラにパイを食べさせる。その食事の席でタイタスはラヴィニアを刺し殺し、タモーラも殺害。妻を殺されたサターナイナスはタイタスを殺し、父を殺されたリューシアスはサターナイナスを殺す。リューシアスは新しいローマ皇帝となり、アーロンを生き埋めに、タモーラの遺体は野に捨てるよう命じる。

≪メモ≫

血の匂いがぷんぷんしてくる話です。主要人物がほとんど殺されてしまうなんて、尋常じゃありません。死んだキャラクターを登場人物表から消していくと、ほとんどの人が消えてしまうくらいですからね。殺した人間をパイにして母親に食べさせるなど、ちょっと引いてしまうくらい狂気の世界が広がっています。タイタスは息子たちの生首を見た後「もう流す涙はない」と言って突然笑い出すのですが、そりゃこれだけの惨劇が続けばおかしくなるでしょ・・・軽い喜劇を何作も書いているシェイクスピアが、一方でこれほど残酷な作品を生み出しているなんて驚きです。

タイタスの娘ラヴィニアは、前半は森の中でアーロンと逢い引きをするタモーラに対して厭味を言うなど、気の強いところを見せています。しかも結構キツイ厭味なんだよね、これが。他にも彼女はタモーラの浮気に対して「皇帝がこんな侮辱を受けるとは!」なんて言ってますけど、自分だって皇帝を捨てて弟を選んだくせに・・・などとちょっとだけ意地悪な気持ちにもなったりします。しかしその直後強姦された挙句、舌と両手を切断されるという最悪の扱いを受けており、一瞬にして「超」悲劇のヒロインとなってしまいます・・・しかも最後には父親によって殺されてしまうわけだし。杖を口にくわえ、手首のない腕で動かしながら地面に悪人の名前を書くシーンなんて強烈と思いませんか?

最後のタイタス邸での場面にて一気に主要人物が殺されていきますが、
全員が死んだ後にアーロンが全ての悪事の張本人であることがリューシアスの口から明かされるため、タイタスはそのことを知らずに死んだことになっています。皮肉なものです。

それにしても死体をパイにするっていうのはどう考えても不気味。



≪その他≫

この作品が映画になるなんて・・・とかなり期待して
タイタスを観ました。大胆な衣装やセットに驚かされましたが、ちょっと現実離れしたこの作品にはそんなSFっぽい演出がよく似合うのかもしれません。ローマが舞台なのはそのままなのですが、バイクや車、ゲームセンター、さらには裸の男女たちまでもが登場し時代設定は全くわかりません。過去でも現在でもない、「未来の世界」という表現がぴったり。

思っていたほど血が流されないこの映画ですが、その中で強烈な印象を残すのはラヴィニア。切断された両手の代わりに枝のようなものが生え、舌のない口からは血があふれ・・・ただし、なぜかあまり悲愴感の漂わない女優さんではありますが。それともう1つ強烈なのは、やはりパイでしょう。これがまたいかにも半ナマって感じのミートパイで、かなり不気味。それを食べる人々の姿がさらに無気味です。A・ホプキンスがコックの格好をして食堂に現れるのが奇妙ですけどね(笑)

冒頭で少年が登場し、彼が『タイタス』の世界に入り込んでしまうという設定はRSC版『夏の夜の夢』に共通します。しかしこの少年、実はタイタスの孫・小リューシアスであり、れっきとしたこの作品の登場人物なんですね。でも前半では他の登場人物たちに見えている存在なのかどうかがはっきりしないし、演出上彼に何をさせたいのかが僕にはよくわかりませんでした。このあたり、せっかくの設定を活かしきれていない気が・・・

見どころは、タイタスが息子2人を死刑から救おうとして、護民官たちに嘆願する所ですかね。ここでのホプキンスの熱演には胸を打たれます。






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